廊下と階段
家の中で、廊下が好き。
廊下は居室空間ではないから、都会のコピペマンションや戸建てでは省かれがちと思う。
また廊下は、住人・家族の間に距離を置いてしまうものとして、嫌う人もいると思う。
わたしには、この居室空間にならない、廊下と階段が大事なのである。
廊下は長ければ長いほど、曲がりくねっていればいるほど、好きなのだ。
個室を隔てるその空間あるおかげで、家の中で散歩している気分になれる。
といって、それほどの豪邸に住めるわけもないのだが、現在住んでいる家は、それなりの長さで廊下があり、各個室を分けている。
前の住まいはマンションであったが、長い廊下があり、廊下に窓のあるところが好きだった。
居室から居室へ、ドア一枚、壁一枚、というのはどうにも慣れない。
子供のころ、廊下と階段の拭き掃除が、自分の役割であったからかもしれない。
そして普段、人が居住しないそのちょっとした空間に、子供心になにか秘密があるような気がして、用もなしに歩き回ったり、していた。
ガラス張りの渡り廊下、なんて憧れてしまう。
現在の住まいには廊下の先に和室が隔ててあり、もともと離れであったのを廊下で繋いだと聞いている。
ああ、この廊下がガラス張りだったらなあ……
私は新築物件より、こうした中古物件が好きなのだ。
誰かが大事にして住んでいた家。
長い年月をかけないと出てこない、雰囲気。
廊下の色は、赤みを帯びた濃い茶色であり、磨くと艶々し、掃除のし甲斐がある。
この色は、同じ素材であっても新築では出てこないと思う。
ここに、お気に入りのアンティークショップでなにか飾り棚でも仕入れて置きたいと思っている。
元の造りが純和風であるため、純洋風な古典的なインテリアが良く似合う。
こういった組み合わせが出来るのも、元の家主の拘りのおかげであり、中古物件の良さだと思う。
吹き抜けの玄関は音が反響し、当初は戸惑ったものだ。
何代かの歴史を経て今、私たちが住んでいる。
古典的なものの持つ重厚さを花で飾り上げることを夢見て庭仕事にいそしむ訳だが、
この廊下とこの階段がなかったなら、あるいは無駄な玄関の吹き抜け空間がなかったなら、私がここに住むことはなかったと思う。
廊下には、何か秘密が潜んでいるのだ。