西丸震哉のこと
机上登山、というのが、西丸氏の本で初めて読んだものであった。
面白かった。
彼が、とても経験豊富な登山家であることもよく分かったし、地図を読み解くことができ、また、それによる目の付け所がにくせがあり、それが興味深かった。
尾瀬の一帯には、彼が命名の地名がたくさんあることも、知った。
有名なところで、岩塔ヶ原だろうか。
SNS上では都市伝説のように扱われている、ちょっと面白い所だ。
西丸氏が尾瀬に盛んに通っていたころは、この一帯に規制はなかったが、今では、立ち入り禁止区域が多くなり、冬季以外は、訪れることは、岩塔ヶ原も、できない。
岩塔ヶ原、カッパ山、スモウトリ田代、赤田代、たそがれ田代にかわたれ田代と、彼が名付けたものだ。
カッパ山などは、当時地図には記載されておらず、昭和も半ばになって彼が初登頂ということだったらしい。
山小屋作ろうよ、という著作がある。
これも面白い。
山小屋?そんな金なんかないよ、という人々の先を遮るようにかれが提案する最初の案は、なんとビニール傘を1本たてただけの、山小屋、であった。
そこから、ブルーシートを張るとか、畳半畳、一畳二畳と、作り方をトイレのことまで合わせて、懇切丁寧に記述してあった。
夢見て羨んでいても、何も手に入らないのである。
日本国領土でありながら、容易にはいけない北方領土。
択捉島に面白そうなところがあると知ったのも机上登山からだ。
私はこの一帯の2万5千分の1地形図を持っているが、それは本当に奇妙な地形である。
なだらかな斜面の山肌に、長さ1キロ高さ500メートルほどの、岩の盾がŁ字型に
ニョッキリ突き出している。
これはいったいなんなのか?
キムンポラ、というそうだ。
アイヌ語だろうと思って調べてみると、羽ばたく山、という意味であるらしい。
見てみたいなあと、憧れは募る。
羽ばたく山だなんて、壮大な光景なんだろうなあ。
鳥海山も、その名のとおりで、秋田県側から見るそれは、大きく羽を広げ海へ飛び立つようだが。
西丸氏は、もともと農水省の人で、41歳寿命説なんかが、一般的には有名な著作である。
そんなことを言う人だから、結婚はしても、子供は作らないと、決めていたそうだ。
奥さんは、彼の著作にひんぱんに登場してくる。
マミさんという。
新婚旅行はニューギニアの食人種地帯だったというからマミさんも相当だ。
彼が、マミさんのこと書く時、愛情が滲み出る。
そんなところも、彼の著作を読んでいて楽しいところだ。
地形図を眺めるのは楽しい。私は彼のようにそれを立体化して見、自在に山中を歩くことはできないが、なんだろうここ…そんな風に想像して楽しむことはできる。
そんな楽しみを西丸氏から、教わった。